ステーブルコインとは?
日本銀行の決済機構局長の講演(2025年7月31日)は、ステーブルコインを、ブロックチェーン上で流通する暗号資産の一種であり、Bitcoin等の値動きの激しい従来型の暗号資産とは異なり、価値が安定的(ステーブル)で決済手段として利用され得るものを言う、と述べています(日本銀行「技術革新と地政学リスクの下での通貨・決済システムの未来」)。この講演内容は講演者自身の考えであり、日本銀行の公式見解ではないと断られています。
金融審議会のワーキング・グループ報告は、いわゆるステーブルコインについて明確な定義は存在しないとしたうえで、一般的には、特定の資産と関連して価値の安定を目的とするデジタルアセットで、分散台帳技術(又はこれと類似の技術)を用いているものをいうものと考えられる、と記しています(金融庁 金融審議会 資金決済制度等に関するワーキング・グループ報告(2025年1月22日))。
この記事では、日本の法令上の位置づけ、価格を安定させる仕組みと裏付け資産、区分、指摘されているリスクを、日本銀行・金融庁・e-Gov法令検索の資料にもとづいて整理します。
日本の法令上の位置づけ
資金決済に関する法律(資金決済法)第2条は、「電子決済手段」(第5項)と「暗号資産」(第14項)を別々に定義しています(e-Gov法令検索「資金決済に関する法律」)。
| 用語(資金決済法) | 定義の要旨 |
|---|---|
| 電子決済手段(第2条第5項) | 第1号は、物品等の代価の弁済のために不特定の者に対して使用でき、かつ不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子的方法により記録されている通貨建資産に限り、有価証券、電子記録債権法第2条第1項に規定する電子記録債権、前払式支払手段その他これらに類するものとして内閣府令で定めるものを除く)であって、電子情報処理組織を用いて移転できるもの(第3号に掲げるものに該当するものを除く)。第2号から第4号は、下の「ステーブルコインの区分」の表のとおり |
| 暗号資産(第2条第14項) | 第1号は、同じく物品等の代価の弁済のために不特定の者に対して使用でき、かつ不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く)を除く)であって、電子情報処理組織を用いて移転できるもの。第2号は、不特定の者を相手方として第1号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転できるもの。ただし、金融商品取引法第29条の2第1項第8号に規定する権利を表示するものを除く |
日本銀行の講演は、ステーブルコインを暗号資産の一種と述べています。一方、資金決済法第2条第14項は、暗号資産の定義から、通貨建資産と電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く)を除いています(e-Gov法令検索「資金決済に関する法律」)。
第2条第7項は、「通貨建資産」を、本邦通貨若しくは外国通貨をもって表示され、又は本邦通貨若しくは外国通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるものが行われることとされている資産と定めています(e-Gov法令検索「資金決済に関する法律」)。
金融審議会のワーキング・グループ報告は、いわゆるステーブルコインのうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの(及びこれに準ずるもの)であること等の一定の要件を満たすものについて、現行法は「電子決済手段」(資金決済法第2条第5項)と定義しており、アルゴリズム型ステーブルコイン等、これに当てはまらないものも存在する、と記しています(金融庁 金融審議会 資金決済制度等に関するワーキング・グループ報告(2025年1月22日))。
金融庁は、令和5年(2023年)6月1日から「電子決済手段等取引業・電子決済等取扱業」に関する新しい制度が開始され、国内でこれらを営むには資金決済法・銀行法に基づく登録が必要になったと案内しています。同ページは、これを法定通貨の価値と連動するいわゆるステーブルコインの仲介等を業として行うことと注記しています(金融庁「暗号資産・電子決済手段関係」)。関係する政令は令和5年6月1日から施行されると、金融庁が公表しています(金融庁「令和4年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に関するパブリックコメントの結果等について」)。
金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律(令和8年法律第64号)は、2026年7月15日に成立し、同年7月23日に公布されました(参議院「議案情報」、金融庁「国会提出法案」)。同法の附則は、原則として公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行すると定めており(金融庁「法律・理由」)、資金決済法第2条第14項を「電子決済手段サービス仲介業」の定義に改める規定を含みます。施行日を定める政令は、確認できていません。このため、この記事の資金決済法の記述は、e-Gov法令検索に掲載されている現行の条文によります(2026年10月27日確認)。
価格を安定させる仕組みと裏付け資産

金融審議会のワーキング・グループ報告は、電子決済手段(ステーブルコイン)を、法定通貨と連動する価値を有し額面で償還を約するもの等を指す、と記しています(金融庁 金融審議会 資金決済制度等に関するワーキング・グループ報告(2025年1月22日))。
日本銀行の講演は、ステーブルコインの中にも、決済利用を目的に価値の安定を重視したもの(米国では「ペイメント・ステーブルコイン」と言われる)と、そこまで価値が安定していないものとがあり、この違いは主に裏付け資産の安全性・流動性の違いに関係している、と述べています(日本銀行「技術革新と地政学リスクの下での通貨・決済システムの未来」)。
同講演は、例えば、ペイメント・ステーブルコインは、銀行預金、短期国債等の流動性が高く安全性も高い資産が裏付け資産として分別管理され、価値が保全される、と述べています(日本銀行「技術革新と地政学リスクの下での通貨・決済システムの未来」)。
ステーブルコインの区分

資金決済法第2条第5項は、電子決済手段を次の4つに分けて定めています(要旨)(e-Gov法令検索「資金決済に関する法律」)。
| 号 | 内容 |
|---|---|
| 第1号 | 物品等の代価の弁済のために不特定の者に対して使用でき、かつ不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子的方法により記録されている通貨建資産に限り、有価証券、電子記録債権、前払式支払手段その他これらに類するものとして内閣府令で定めるものを除く)であって、電子情報処理組織を用いて移転できるもの(第3号に掲げるものに該当するものを除く) |
| 第2号 | 不特定の者を相手方として第1号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転できるもの(第3号に掲げるものに該当するものを除く) |
| 第3号 | 特定信託受益権 |
| 第4号 | 前3号に掲げるものに準ずるものとして内閣府令で定めるもの |
金融庁の2022年6月6日の事務局説明資料は、Terra USD(UST)を、米ドルに連動するいわゆるアルゴリズム型のステーブルコインとして取り上げています。同資料は、USTは法定通貨や暗号資産等の担保を用いず、USTの供給量をコントロールして1UST=1米ドルに価格を安定させるとしていたこと、2022年5月上旬にUSTの価格が急落したこと、これを受けてステーブルコインや暗号資産全体に対する市場の警戒感が高まったことを記しています(金融庁 事務局説明資料)。
ステーブルコインで指摘されているリスク

日本銀行の講演は、裏付け資産として流動性が低く信用リスクもある資産を保有しているステーブルコインは、償還請求された場合、額面で迅速に償還できるのかという問題がある、と述べています(日本銀行「技術革新と地政学リスクの下での通貨・決済システムの未来」)。
同講演は、ステーブルコインの用途としては暗号資産取引の決済手段としての利用が多く、一部国際送金でも使われていると言われていること、パーミッションレス・ブロックチェーンは通常の銀行送金に比べると基本的には本人確認が難しい面があり、不正取引に使用されているのではないかとの懸念の声も聞かれることを述べています(日本銀行「技術革新と地政学リスクの下での通貨・決済システムの未来」)。
金融活動作業部会(FATF)は、ステーブルコインのマネー・ローンダリング等への悪用事例が増加していること等を踏まえ、令和8年(2026年)3月3日に「ステーブルコイン及びアンホステッド・ウォレット(P2P)に関する報告書」を公表しました(金融庁「FATFによる「ステーブルコイン及びアンホステッド・ウォレット(P2P)に関する報告書」の公表について」)。この報告書はFATFの責任で作成されたもので、日本政府の見解を示すものではないとされています。

